第 1 章
清く正しい本棚の「蘊蓄編」
ver 1.11 (2002.11.19)

02071601.jpg

[戻る]  [目次を表示する]  [第2章「設計編」へ



 1-1.なぜ、我々は本棚を「自作」するのか?

 モノを「自作」する意義

   今のご時世で、なんでもかんでも「自作」でまかなうのは馬鹿のすることだ。自分が
  費やす「時間」と出来上がる「成果物」とを天秤にかけ、十分にペイしなけりゃモノを
  自作する意義は非常に少ないだろう。要するに「買った方が安い」というお話だ。世の
  中に100円ライターを自作する人がいないのは、この典型的な一例である。

   ところが、ある事情により「自作」が大きくモノを言うケースが存在する。市販品の
  中に本当に優れた「商品」が存在しない場合である。「存在しない」のだから、これは
  もう「自作する」しかないのである。現状では、このような例は非常に稀なケースだと
  思われるが、それでも確かに、特定ジャンルの「商品」の中には、この「極めて特殊な
  事情」が散見されることがある。

 ■ 家具屋の本棚の七不思議

   ここで我々は、家具屋に並んで売られている本棚に注目することにしたい。どういう
  理由かは知らないが、家具屋で売られている本棚の中には「商品」としてロクなものが
  ない。長年に亘って家具屋の本棚を観察してきた私が、つくづく「不思議」だと思って
  いることを述べてみよう。

   家具屋に並んだ本棚には、

    (1) 天井まで届く高さのモノがない
    (2) やたら奥行きばかり有り過ぎる
    (3) 肝心の棚板がほとんど太鼓作り
    (4) 不要なガラス窓や扉などが付く
    (5) そのくせ裏板の強度に不安有り
    (6) 上等な品物ほど派手で悪趣味だ
    (7) 息の長いロングセラー品もない

  という、実に困った問題点が存在する。私が「家具屋の本棚の七不思議」と呼ぶそれは
  ほとんど全国の家具屋の本棚に共通するものだろう。これに類しない本棚を探し出して
  購入することは至難の業である。

   もちろん、この「七不思議」をことごとく排した真に理想的な本棚も、日本中を探し
  回ればあるいは見つかるかも知れぬ。しかしそんな本棚は、たとえ見つかったとしても
  おそらく「特注品」に近いものか、もしくは目玉が飛び出るほど「高い」ものなのでは
  なかろうか? リーズナブルなお値段で、10年20年と経っても安心して買い足して
  いける「市販品」は、ほとんど皆無に近いと私は確信する。

 ■ 結局、本棚は「自作」に限る

   このような理由から、結局「本棚」というのは最初に述べた「極めて特殊な事情」に
  該当する稀なケースだということになる。すなわち我々は、これを「自作」することで
  のみ、初めて「清く正しい本棚」のオーナーとなり得るのである。

   本稿は、前述「家具屋の本棚の七不思議」をお嘆きの貴兄のために、過去30年間で
  のべ20本の本棚を自作してきた戸田プロダクションが、その総力をあげてお届けする
  大特集「清く正しい本棚の作り方」である!(^_^)
gankodo.jpg


 1-2.自作本棚のメリット

 木工とは、極めて容易な作業の積み重ねだ

   「本棚を自作する」と言うと、たいていの人が尻込みするようだ。世の中には本棚を
  自作する人が圧倒的に少ないから当然だろうが、だからと言って、アナタに本棚が自作
  出来ないわけでは断じてない!

   そもそも「木工」とは、モノを作る「ジャンル」の中では、我々がもっとも取っ付き
  易い範疇なのである。複雑な電子回路の知識が必要なわけではない。精巧な機械加工の
  技術が必要なわけでもない。誰だって、木の板にボンドを塗るくらいのことは出来る。
  誰だって、木の板にネジをねじ込むくらいのことは出来る。誰だって、木の板にハケで
  ペンキを塗るくらいのことは出来るだろう。…そして、この「誰だって出来る」作業の
  積み重ねこそが、ここで述べる「本棚作り」のすべてなのである。

 優れたコストパフォーマンス

   本棚の自作にかかるお金は、主に「材料代」と「ペンキ代」だけだ。他にもボンドや
  木ネジ、あるいは紙ヤスリといった細かい品物代金が必要だが、これらはそれほど高価
  というわけではない。過去の経験を踏まえて言うと、(天井まで届く)本棚を作った場合
  には、本棚1本当たりが「約1万5千円」で出来上がる。2本作ったら「約3万円」と
  いったところだろうか?[*1]

   読者の中には3万円という金額を「高い」と感じる人もいるだろうが、間違えないで
  欲しいのは、この金額は市販品では入手し難い(天井まで届く)本棚「2本」のお値段だ
  ということである。これだけで、ざっと1000冊近い本が収納出来るだろう。もしも
  アナタの蔵書が1000冊以下なら、たった3万円で一生使える(天井まで届く)本棚が
  手に入ることになる。本好きのアナタなら、きっと「安い」と思って下さいますよね?

                      [*1] 西暦2001年12月現在の、物価感覚による

 ■「規格化」による組み合わせ

   本棚を自作する最大のメリットは、実はコストパフォーマンスではない。むしろ私が
  考える最大のメリットとは、十二分に吟味した設計がもたらす「規格化」にある。

   アナタが作った本棚は、もちろん家具屋には売っていない。10年後にまったく同じ
  本棚が欲しくなった時、市販品ではおいそれと同じ品物を「買い足す」ことが出来ない
  のに対し、自作の場合はまったく同じものを「再び作る」ことが出来るのである。この
  何物にも代え難い「安心感」は、本棚に限らずモノを自作する最大のメリットだろう。

   事実、私は過去30年間で少しづつ、合計20本の本棚を自作してきた。うち2本は
  私の弟が「どうしても欲しい」と言うのでヤツにくれてやったが、残り18本はすべて
  今でも「現役」である。同じ図面で同じ大きさのモノを作ったので、それぞれの本棚は
  部屋の状況に応じて自由に「組み合わせ」可能だった。この30年間で住まいは「都合
  5回」ほど変わったが、どこに行っても様々な組み合わせで本棚を並べることが出来た
  のは幸いである。

   この、様々に組み合わせ可能な「規格化」は、おそらくアナタの一生、生涯に亘って
  有効な保険であろう。人生は長く、蔵書は増える。いつ何時、新しい本棚を追加したく
  なることがあるか判らない。その時、すぐに同じ寸法のモノを作って「組み合わせ」が
  可能な自作本棚は、決してお金では買えないアナタの貴重な「財産」となるはずだ。


 1-3.イメージを固める!

 全体的な寸法

   早速だが、これから自作する本棚の「イメージ」を固めていこう。

   まず全体の「高さ」だが、これは先ほどからも再三述べているように、是非とも天井
  まで届く高さとしたい。市販の本棚では、大きなモノでも高さはせいぜい2メートルに
  満たないが、これでは「鴨居」の上部分の空間がまったくムダになってしまう。日本の
  一般的な木造家屋の場合、天井までの高さは2メール30センチくらいなので、目標と
  してこの数字を一応の「目安」としよう。

   次に全体の「幅」だが、これはあまり広いと使いづらいし、かと言って狭過ぎるのも
  本の収納量に影響するから困りものである。「畳と同じ幅にしておけば都合が良い」と
  考える人もいるだろうが、実際にはこれより若干狭い方が、組み合わせの自由度が高く
  なるという意味でお勧めである。作った本棚を部屋の一角に「コの字型」で配置したい
  場合があることや、後述する材料からの「木取り」関係などもあって、ここでは全体の
  幅を「約65センチ」としておこう。

   もちろんこの幅は、アナタの都合に合わせて自由に決めても良い。私自身、たまたま
  今回新しく作った本棚は、過去に作った既存の本棚を並べて余った幅にピッタリ収まる
  寸法に仕上げてある。これは前述した「規格化」とは逆行するが、新築した家の書斎の
  壁にピッタリ収めたい!という特殊事情があったためだ。

 必要にして十分な奥行き

   重要なのは、棚板の「奥行き」である。市販の本棚ではこの奥行きが「異常」なほど
  深く、ざっと30センチ〜35センチくらいもある。これはまったくムダな寸法であり
  たいていの本には深過ぎることが多い。こんなに奥行きの深い本棚では、壁面に並べた
  場合の「圧迫感」もさることながら、本を収めて余った手前側のスペースに、ついつい
  ウッカリと別の本を並べてしまう「魔の二段収納」を誘発しがちだ。経験者ならご存知
  だろうが、この「魔の二段収納」とは、後列の本の背表紙が見えなくなるという点では
  本の「死蔵」を意味しており、決してやってはならない収納方法なのである。蔵書とは
  歯を喰いしばってでも「背表紙を見せて」収納すべきモノなのだ。

   実際に、これから作る本棚の「奥行き」をいくらにするのか? これはアナタが所有
  している蔵書の種類に依存する。基本的な考え方としては、(ほとんど)すべての蔵書が
  収まるのに「必要」な長さをもって「十分」とすればよろしい。

   例えば私の場合、パソコン関連の雑誌が死ぬほど多く、これが収まるのに必要な長さ
  とはピッタリ「21センチ」である。一方、一般的な文芸書や新書本、またはコミック
  などでは「15センチ」あれば十分だと言える。実際問題、馴染みの本屋に行って棚の
  寸法を計らせてもらうと大変良い経験となるだろう。

   この程度の奥行きの本棚であれば、普通の部屋の壁際にピッタリ並べてみてもさほど
  「圧迫感」は感じないものだ。もともとそこには「壁」があるのだから、たとえ高さが
  天井まであったにせよ、本棚は奥行きが浅ければ浅いほど壁と「同化」して目立たなく
  なるモノだと言えるだろう。

 棚板について

   全体の寸法が決まったので、今度は「棚板」を考えよう。市販の本棚は、ほとんどの
  ものが「太鼓作り」の棚板を採用している。これはもう「論外」である。太鼓作りでは
  本の重みに耐えられず、長い期間には必ず棚板が垂れ曲がってしまう。かと言って厚い
  無垢材を使うとたちまち価格がハネ上がり、そんな高い本棚は売れないからメーカーは
  太鼓作りの棚板を採用するしかないのである。ハッキリ言う。市販の本棚は、正確には
  「本棚」ではない。あれは女の子が縫いぐるみなどを並べる「多目的棚」なのだ!

   もちろん我々は、太鼓作りなど「ヤワな」棚板は使わない。しかし無垢材はかえって
  狂いが出やすいから、自作本棚の材料は必然的に「合板」だということになる。合板と
  言えば、その厚さは3ミリ飛びに規格化されており、自作本棚の材料としてはだいたい
  18ミリ・21ミリ・24ミリあたりが使いやすいと思う。もちろん、それ以上の厚さ
  (例えば30ミリ)を採用することも可能だが、この棚板の厚さは本棚の「幅」とも深い
  関係があり、結局のところは「バランスを見て」ということになる。

   前述した「約65センチ」の本棚の場合は、棚板だけの寸法が60センチ程度になる
  から、厚さの方は21ミリあれば十分だ。実際、私の作った本棚では21ミリ厚合板を
  採用しており、体重70キロ以上(?)の私でも ハシゴ代りによじ登ることが出来る。

 ■ 全体は、上下「2段組み」で作る

   以上の考察から、ほぼ全体の「イメージ」が固まったと思う。

    全高 :2メートル30センチ程度
    全幅 :     65センチ程度
    奥行き:     21センチ程度

   これはもう、かなりの大型本棚だ。特に2メートル30センチの高さは、製作途中に
  高過ぎて手が届かない……、ということにもなりかねない。そこで我々としては、この
  本棚を上下2段の組み立て方式で製作することにする。こうすれば製作途中の作業性も
  良いし、移動時の運搬性も良い。また、事情により、万が一上下を分割せねばならない
  事態になったとしても、より高い「設置自由度」を保てそうだ。

   良いことずくめの「上下2段組み」であるが、問題はどの辺の高さで2段にするか?
  だろう。様々な案があるだろうが、もっとも妥当な案は、部屋の「鴨居」位置を基準と
  して、「下部」を1メートル80センチ程度、「上部」を残りの45センチ程度とする
  方法だと思う。後述するが、実はこの寸法は、材料の「木取り」関係でも非常に都合の
  良い寸法なのである。我が家の本棚は、すべてこの分割寸法を採用している。

 ■ 目指すは「清く正しい本棚」だ!(^_^)

   最後にデザインだが、これはもう、出来るだけ「シンプル」な方が良い。必要な時に
  必要な蔵書にサッとアクセス出来ることをモットーとするなら、無意味な扉やガラス窓
  などは「腐れインテリにでも喰わせておけ!」ということになる。

   我々の本棚に、無意味なデコレーションは不要である! 純粋に、必要な機能だけを
  突き詰めて行けば、そのデザインも、おのずから「究極のシンプルさ」を呈することに
  なるはずだ! 我々はそんな本棚を「清く正しい本棚」と呼ぼうではないか。よ〜し!
  これですべての「イメージ」が固まった!

   次章以降、いよいよ実際に本棚を製作する手順をご説明する。乞うご期待(^_^)。

 


[戻る]  [目次を表示する]  [第2章「設計編」へ